第140章

夏の夜。蝉の声だけが、しつこいほど途切れない。

酒井正志が地下のボクシング場を出たとき、全身は傷だらけだった。なのに口元だけは、かすかに吊り上がっている。

胸に抱えた黒いリュックの中には、1万円。

足取りは重く、ふらつきながらも――それでも心の奥だけは、妙にあたたかかった。

酒井初音がいなくなってから、彼らの住まいはもっと狭い賃貸へ変わった。

酒井裕也は金融の世界に触れてから、そこそこ稼ぐようになった。

酒井秀雄はコンピュータと金融、それに将来のAIや新エネルギー開発に関わる守秘の仕事を抱え、さらに長年の株で大きな収入も得ている。

だが秀雄がその金を使う先は、ほとんど決まってい...

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